父との面会で涙がボロボロこぼれた。鼻水をかみかみ面会した。

病院の送迎バスに揺られて父にあってきた。

 父は胃に入れたチューブを通して血を出していた。どれだけ弱っているだろうと思った。

 実際に横たわる父と面会した。本当はタブレット面会なのだけれど、院長先生の計らいで会わせてくれた。
 父の顔は、少しはれぼったく、苦しそうでもあった。血色が良かったのは助かった。ふーふーふーと息を吐きながら呼吸していた。今日は父の存在を身体で感じようとした。息をしている父の生きている存在を、僕の身体を父の呼吸にシンクロして父を感じようとした。
 父のことを振り返った。僕に迷惑をかけ威張ってきた父。その父のペニスにいまだに苦しんでいるかもしれない僕。少なくても乗り越えてはいない父の存在。でも体で自分の身体を通して父を感じようとした。こいつは散々迷惑な奴だったな、自分の方が偉いみたいに振舞ったりして。いつも健康で元気で嫌な奴だった父。その父のことを振り返ると病室で涙がボロボロ流れて、鼻水をすすって、鼻をかみかみ、父の面会を行った。

 僕は父の病室でずっと泣いていた。涙が出てきた。こんなに弱って。寄る辺のない存在で、消えようとしている父になった。その父が、母を選び僕を母に身ごもらせ、僕にとっての父は始まった。全部父の、この横たわる、三本の矢の折れかかっている父から始まった。父の精液から僕は誕生した。父が源だ・みなもとだ。バカヤローな父。父が終わろうとしているという事実に涙がボロボロ出た。父のことを感じ、考えると振り返ると、涙は止まらなかった。

 来月もタブレット面会の予約を取った。使えるのか?もちこたえるか?
 
 病室には、令和2年12月9日入院と書かれた父の存在証明が貼られ、看護婦さんたちが祝った父の誕生日カード、84歳おめでとう、みたいなのが貼られていた。女性たちに面倒を見てもらって、病院の方々の世話になって父は永らえて・ながらえて きた。父の髭剃りも台の上にあった。父の最晩年の暮らしは病室にあった。

 看護婦さんがそろそろ切り上げてくれと、20分後くらいに見えられて、父の顔の前で、目をその時は開いていた、手を左右に振ってバイバイして病室を後にした。差し出して頂いた椅子を元に戻して。糞っ垂れの父との面会は終わった。父を深く感じれて、充実した面会だった。ありがとうございました。<おわり>